FirstCallMusic Studio Vibes - 音楽家としての「これから」も見据えた空間オーディオ対応スタジオ
アニソンやJ-POP、劇伴などの音楽プロデュースを多数手がけるクリエイターや演奏家のマネジメント、そしてレコーディング・スタジオの運営を行っている株式会社ファーストコールミュージック。その代表を務めるのが、作曲家であり音楽プロデューサー、そしてミュージシャンでもある太田雅友氏。今回、これまでおよそ10年にわたり拠点としてきた元麻布スタジオに加え、新たに東京・代官山にスタジオ「FirstCallMusic Studio Vibes」を立ち上げたきっかけをこう振り返ります。
太田 「元麻布のスタジオは、本当にありがたいことに好調に稼働しておりまして、それに伴って僕自身が作業できる新しい場所を探していたんです。また、FirstCallMusicでは劇伴の制作もやらせて頂いているんですけど、その過程でNetflixがDolby Atmosでのファイル納品を推奨していくというのを、サイトの資料で目にすることがありまして……"今後はこの方向に進んでいくんだろうな"と感じていました。でも、仮に天井にもスピーカーを必要とするイマーシブをやるとなると、元麻布のスタジオですと天井高が足りないな、と。そこでこの物件に出会って“ここならDolby Atmosに対応したスタジオが出来るんじゃないか”ということで、始まったという感じです」
ファーストコールミュージックの新たなスタジオとしてスタートした「FirstCallMusic Studio Vibes」は、昨年の秋より運営を開始。太田氏自身、「稼働までにかなりの時間がかかってしまった」と振り返りますが、その過程で極めて重要な出来事が世の中を賑わせます。Apple MusicやAmazon Music HDによる空間オーディオです。この段階で太田氏は、「空間オーディオで音楽を生み出すスタジオ」という方向へシフトしたと振り返ります。
太田 「空間オーディオを初めて体験した時に一番大きかった感動は、やっぱり臨場感でしたね。ライヴで聴いているような躍動感と、その情報量の多さ。僕にとっては、前後や上下の情報量の多さというのと、ダイナミックレンジの広さが圧倒的に違うな、と感じました。とにかく私達にとってはタイミングが良かったな、と思っています」
およそ3mもの高い天井高となるFirstCallMusic Studio Vibesスタジオには、Dolby Atmos Home 7.1.4の規格に準拠する形で11本の8330スタジオ・モニターと1台の7350スタジオ・サブウーファーを導入。さらにその後、フロントのL/C/Rch用に、その位相特性を始めとしたサウンドに惚れ込んでいたという8341を導入するなど、オープン以来も様々な形で進化を続けています。
太田 「Genelecをこの部屋で採用したことには、いくつかの大きな理由があります。ひとつは、僕はあくまで作曲家でありプロデューサーであって、エンジニアではないということです。つまり僕自身もここで作業は進めますが、トラックダウンについてはエンジニアの方にお越しいただいてトラックダウンするということが、弊社のスタジオでは基本になるんです。だからこそ誰もが知っていて、誰にとっても間違いのないスピーカーを選びたかった、ということがありました」
また、全部で12台のスピーカー/サブウーファーを必要とするイマーシブ環境を構築するにあたって、GLMは非常に大きなポイントとなったと振り返ります。
GLMは「誰でも本当に簡単に操作できる」という点で、非常に魅力的でした。
太田 「やはり、こうしたスタジオを作るにあたって、重視したのはGLMでした。もちろん、他社の測定ツールで実施してもよかったんですけど、それらは決してどんなエンジニアでも使えるツールではないんです。その点、GLMの場合はリスニング・ポイントにマイクを立てて、あとはソフトウェアからキャリブレーション開始のボタンを押すだけです。つまり、乗り込みのエンジニアがスピーカーのセッティングを測定し直したい、という時でも、GLMは誰でも本当に簡単に操作できるという点で、非常に魅力的でした。それともう一点、僕がいままで体感したことのあるルーム・イコライザーのなかでも、GLMはイコライザーっぽさがないというか、本当に自然に補正されるんです。これは、実際に導入してみてから本当に感じたところですね。私たちのスタジオは、フロントのL/C/Rについてはエンジニアさんの作業環境に合わせて8330と8341のどちらかを選んでご使用いただけるようにしているのですが、GLMのこの簡単な操作とキャリブレーションの速さ、確実さはセッティング変更の際も本当にストレスなく使用できます」
太田氏はこれまで体験してきたソフトウェア・ベースの音場補正について、「何かギュッと抑えられる感じがするものがいままで多かった」と、その効果に違和感を持っていたと振り返ります。しかし、その点GLMは測定プロセスの簡便さに加え、サウンドに対して違和感なく、かつ正しい判断を行うことのできるサウンドを構築できると、その効果に大きな満足感を感じているそうです。
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8341と8330が混在する環境でも、音のバランスが崩れることなくモニタリングできる。
また、天井にもスピーカーを設置する必要のあるDolby Atmos環境において、「Genelecが持つサイズを超えた再生能力もポイントだった」と話します。
太田 「Genelecの場合は、推奨されるリスニング距離などもをきちんと明記した資料もしっかりと用意されていたので、事前にセッティングした環境をしっかりとシミュレーションすることができたことは、非常に大きかったです。また、同じ低音の量を基準とした場合でも、他のスピーカーと比べてコンパクトなサイズで実現できるということもGenelecを選んだ理由のひとつとなりました。この建物のオーナーさんとのやりとりのなかで、“天井にあまりに重いものは危険じゃないか”ということがあったのですが、Genelecでは8330でもしっかりと必要なSPLが獲得できたんです。現在はフロントのL/C/Rに8341も導入しましたが、8330が混在する環境でも音のバランスが崩れることなくモニタリングできる点に、非常に満足しています」
ファーストコールミュージックがこの新しいスタジオで、7.1.4chのイマーシブ環境を構築したことには、その将来性と音のクオリティが深く関係しています。そしてもうひとつ、単純にトラック数が多いことに関係する情報量の多さという部分でも、大きな可能性を感じていると太田氏は力説します。
太田 「いままでは楽曲に込められているエネルギーを全て2chに収めていたわけですが、これは単純にLFEがひとつ増えるだけでも負担が下がるのかな、と思っています。ただ、いままでのマルチchオーディオの場合は、例えば5.1chサラウンドであればその数分だけのスピーカーが必要だったということです。そこが空間オーディオであれば、AirPodsだったりバイノーラル対応機器であったりで聴けるようになった。ここが大きなポイントだと思っています。ダイナミックヘッドフォントラッキングなんかもAirPodsでは対応していますけど、そういう技術もこんなに小さいワイヤレスのイヤホンの処理でできるようになったというのは、技術の進歩だと思うんです。そこが過去と現在の大きな違いであるということですよね。だからこうしたイマーシブ、空間オーディオも時間をかけて普通のものになっていくと思っています」
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