Apple MusicAmazon Music20224GenelecThe Ones7.1.4ch Dolby AtmosMADolby AtmosGenelec

1991年に設立された東放学園音響專門学校は、PAエンジニアやレコーディング・エンジニア、MAエンジニアといった音を創り出す人材を送り出している音響技術科と、コンサート制作やアーティスト・マネージャーなど、音楽ビジネスを担う人材を送り出す音響芸術科を擁する、音楽・音響全般のプロフェッショナルを育成する専門学校です。

そのルーツは1969年、東京放送(TBS)教育事業本部が立ち上げたTBSコンピューター学院で、1972年には現在の母体となる東放学園が設立。放送局やスタジオなど、エンターテインメント分野へ数多くの人材を輩出してきました。

東放学園音響專門学校の渋谷校舎に90年代から設置されているレコーディングAスタジオには、Genelecの1034Aが当初から導入されているほか、教室の多目的モニター・スピーカーとしてもGenelecのスタジオ・モニターが複数採用されています。今回、新たにDolby Atmos対応を果たしたMAスタジオも、この渋谷校舎に設置されました。

制作の未来を担う人材を育成するイマーシブ・スタジオ - 東放学園音響専門学校

東放学園音響専門学校 教務教育部 舟橋亜里紗氏

舟橋 「東放学園は、PAに1部屋、レコーディングに2部屋、MAに1部屋のスタジオを持っています。仮設でスピーカーを設置して5.1chのサラウンドを確認することはありましたが、常設で5.1chもしくは7.1chのサラウンドミックスができるスタジオはこれまでありませんでした。5~6年ほど前に常設でこうしたサラウンドのミックスが行えるスタジオに改修したいという計画が上がったのですが、業界の流れとしてもイマーシブ・サウンドへのニーズが高まっているということで、新しい取り組みであるDolby Atmos対応のMAスタジオへ改修しようと決まりました。TVや映画の世界だけでなく、レコーディング業界やPA業界でもこれからはイマーシブ・オーディオが大事になってくるはずですし、学生が学ぶ現場にもいち早く導入した方がいいだろうとの判断がありました」

鈴木 「MAスタジオ自体は15年くらい前から設置されていまして、昨年まではステレオ・ミックスのスタジオとして活用されていました。私が教員となった時には、すでにDolby Atmos化への計画は上がっていましたね」

制作の未来を担う人材を育成するイマーシブ・スタジオ - 東放学園音響専門学校

東放学園音響専門学校 教務教育部 鈴木梨央氏

東放学園系列校の中でも初めてのDolby Atmos対応MAスタジオということもあり、まずはDolby Atmosの標準的なセッティングである7.1.4chをカバーできる構成とすることが決定。事前に外部のDolbyAtmos対応のMAスタジオを見学するなどし、Dolby Atmosのシステムアップも参考にしながら機材選定を行ったそうです。

舟橋 「MAスタジオには元々、サラウンド化を見越してリア側とハイト用の設置スペースが設けられていた為、そのスペースに入る大きさのスピーカーを導入したいと考えていました。また、“授業に使うスタジオ”という、営業用スタジオとは違う特徴を踏まえた選定も必要でした。MA実習の際、10名程度の学生たちがスタジオに入る都合上、リアスピーカーの前側に広めのスペースを設ける必要がありました。そのこともあって、フロント側と音量を合わせる場合、リア側のパワーが必要になるので、施工会社の方からも“できるだけパワフルなスピーカーを導入した方が良い”とアドバイスを頂いていました。そこで候補に挙がったのがGenelecでした。デモ機をお借りして聴いた8341Aはコンパクトでありながら内蔵アンプのパワーもあり、駆動力については申し分ない。しかも、これまでGenelecは学内の他のスタジオでも導入実績がありますし、私たちだけでなく学生たちも聴き慣れています。そして決め手となったのは調整のしやすさですね。SAM(Smart Active Monitor)システムならではのGLM(Genelec Loudspeaker Manager)ソフトウェアの活用で、一括でスピーカーの調整をできることが何より大きかったです。一台一台スピーカーを管理するのは難しいですし、知らない間に学生が設定を変更したとしてもGLMによってすぐに元へ戻せることも嬉しい点でした」

鈴木 「予め8341をお借りしてステレオ環境でチェックしたのですが、とても音が良い印象が強かったです。様々な楽曲を聴いてみて、いずれも再現される周波数帯域が広く感じましたし、とてもスッキリと聴こえました」

制作の未来を担う人材を育成するイマーシブ・スタジオ - 東放学園音響専門学校

東放学園のMAスタジオに設置された8341とサブウーファーの7370

このMAスタジオには学生だけでなく、学校見学や体験授業で訪れる高校生や保護者の方々も入っていただくこともあり、その際に機材にぶつかってしまうなどのトラブルがないよう配慮し、動線をなるべく広く取ることも重要であったといいます。設定管理を一元的に行えること、そして安全を配慮し動線を邪魔しない天井への設置、そしてリア側もスタンドを使わずにセッティングできることを踏まえた上でのスピーカー選定となったそうです。結果として、これらの条件を満たすスピーカーとして合計11本の全てのチャンネルに8341が採用されました。

制作の未来を担う人材を育成するイマーシブ・スタジオ - 東放学園音響専門学校

スタジオの前方から後方へ見た様子。ウォール・マウントを活用し、動線にも配慮した安全性の高いセッティングとなっている

舟橋「Dolby Atmosのことについては、音響技術科の学生を対象とした授業の中で教えています。音楽に興味がある学生がほとんどなのでステレオとイマーシブ・オーディオの違いを耳で聴いて分かるくらいのレベルになっています。その為3次元的なパンニングについても教えることができます。また、チャンネルベースとオブジェクトベースの違い、それぞれをどう使い分けるのか、なぜふたつの考え方があるのか、といったところも説明しています。Dolby Atmos Rendererの見え方や使い方についても、要点のみではありますが授業で扱っています

鈴木「音楽に対してのイマーシブ・ミックスについては、まだこれからですね。表現の幅が2chから7.1.4chに増えて、それを有効に生かせる想像力はまだまだ成長途中にあると思いますし、まずはスタジオに入ってイマーシブでミックスできるシステムがあるということを知ってもらって、想像力を育てるきっかけになればと考えています。いつか制作会社に入って知識も経験値も付いた時に、“そういえば学校であの時考えたことを実現するためには、どうすればいいのか”と思ってくれたら嬉しいです」

舟橋「また、高校生対象の体験授業の場では、Dolby Atmosの世界を体験してもらえるようなプログラムを用意しています。Dolby Atmosとは何かという説明を延々とされても眠くなってしまいますし、実際に音を鳴らして体験いただく方が響くと考え、参加する高校生の皆さんも音に対して興味のある方がほとんどなので、Dolby Atmosという単語を知らなくてもステレオとイマーシブ・オーディオの違い、3次元的に音が広がっているという違いは感覚として掴めていただけています。帰り際にはすごく楽しかったという感想を頂くことも多く、保護者の皆様も“この音を家でも聴いてみたい”と興味を持ってもらえる場にもなっていますね」

GLM

また、今回の導入には各スピーカー調整を一元的に行えるGLMソフトウェアも大きな理由だったと振り返ります。加えて、GLMが学生たちに向けての新たな教育ツールにもなっていると舟橋氏は話します。

舟橋「GLMを授業で触れることができるというのは、とても大きな意義がありますね。そもそも学生たちはアクティブ・モニターに調整が必要だとは知らず、キャリブレーションで使用するスイープ音も聴いたことがない学生もいます。GLMのようなソフトウェアを使って調整できることを授業で教えておけば、どういうシチュエーションで必要になるのか、前もって理解してもらえます。それと、当校の学生の中にはスタジオ施工会社へ就職したいと考えている学生もいますので、GLMを使った調整作業を面白いと感じてもらえるのではないかとも思っています。GLMは短い時間で一斉にスピーカーを調整できるところや、PC一台とLANケーブルを使った簡単な接続で測定と設定ができる点が良いですね。エンジニアの方などに、“部屋の調整はどうしているのか”と聞かれた場合も、“GLMで行っています”と伝えればすぐにご理解いただけるなど、共通言語のような存在になっていることも助かっています。また、このMAスタジオのマスター・データを保存しておけば、学生に好きなようにパラメーターを動かしてもらったあと、すぐに元に戻すこともできることもスタジオ管理の面でも魅力ですね」

鈴木「GLMの機能性を聞いてすごいと感じたのは、スピーカーを部屋に合わせて最適化することで、どの部屋でも同じバランスで鳴らすことができるということですね。私は技術畑出身なので、それはありがたいことだな、と。エンジニアにとってスタジオが変われば音場も変わりますし、聴こえも変わります。そこで余分な微調整が必要になるというのはネックだったので、スピーカー補正、その聴こえ方の設定までを簡単に行えるのはすごい進歩だな、と衝撃を受けましたね」

制作の未来を担う人材を育成するイマーシブ・スタジオ - 東放学園音響専門学校

徐々に裾野を広げ、一般的な音楽ファン/映像ファンにも広がりつつあるイマーシブの世界。最後にこのDolby Atmos対応MAスタジオを活用した今後のビジョン、目標についてお聞きしました。

舟橋「映像業界だけでなく、音楽業界でもDolby Atmosの存在感が高くなっていますし、配信でもDolby Atmosで配信する、配信済みのものをDolby Atmosでリミックスするといった仕事を受けていると卒業生から聞いています。また、学生の就職先となる企業側からも、Dolby Atmosをはじめとしたイマーシブの感覚を少しでも持っている人が欲しいという話も伺っています」

鈴木「現在はDolby Atmosについての授業は選択科目となっているので、学年全員が受けられるわけではないのですが、ゆくゆくは全員がイマーシブ・ミックスの授業を受けられるようにしたいです。システム図などを全部理解させようとするのは無理かもしれませんが、通常授業として組み込んで、自分で全チャンネル使って作品を作れたらいいですよね。最終的には学生主体でできるように、というのが理想でしょうか。姉妹校に映画校もありますので、将来的に一緒に作品作りを行って、音響セクションはこちらで5.1chなりDolby Atmosでミックスするといったことができたら面白いと考えています。他にも山ほどやりたいことがありますが、今回の改修でその可能性が広がったことが大きいですね」