NK SOUND TOKYOSTUDIO PEARL-

Dolby AtmosSTUDIO PEARL3The Ones273809.1.6ch
※ch数の表記はDolby Atmosの定義に倣っています。

「イマーシブ・オーディオは5年くらい前からアメリカでバズり始めていたと思うんですが、ずっと興味を持っていたんですよ。ただ、日本にニーズがあるのか、日本がその(イマーシブの)方向に向かうのか、あとは単純にスタジオを作るコストを考えていました。ちょうど2022年にDolby Atmosで音を聴くチャンスがもらえて、その時に音楽の今後の可能性を感じちゃったんですよね。その瞬間に、日本が本当にDolby Atmosの方向に行くかどうか関係なく、“これはもう自分で動こう”と思って半年くらいかけて実行させました」

徹底して未来を志向したイマーシブ・スタジオ「NK PEARL」- ニラジ・カジャンチ

ニラジ氏が経営する5つめのスタジオとして誕生した「STUDIO PEARL」

この時、ニラジ氏を惹きつけたのは、イマーシブ・オーディオで表現されるその「奥行き」でした。

「モノラルからステレオになったタイミングから今までは、L/Rの世界感で音を作っているんですけど、それだと限りのあるサウンド作りになっちゃうんです。そもそも僕にとってのミックスは、リアルと少し離れているフェイクの世界を常に演じることなんですけど、そのフェイクをいかにリアルに感じさせるのか、ということにすごい重みを置いています。Dolby Atmosの曲を聴いた瞬間に、僕が出そうとしていた奥行きが“こんなにリアルにでるんだ。これだ!”って思っちゃって……。初めて3Dの世界を感じたんです。映画関係の人は色んな方向に音が動かせるとかたくさんメリットがあると思うんですけど、音楽の制作にとってはひとつひとつの音をどう表現するかが大事なんですよ。そういう意味でもこの“奥行き”、つまり空間の表現に魅力を感じましたね」

徹底して未来を志向したイマーシブ・スタジオ「NK PEARL」- ニラジ・カジャンチ

メイン・サラウンドには、合計9基の8351を導入

ニラジ氏がコメントの中で強調するのは、自分達が音楽に関わる人間であること、そしてDolby Atmosで感じた空間表現力に裏付けられた、その可能性。音楽制作におけるDolby Atmosが、今日に至るまでの盛り上がりを見せた背景について「アメリカではエンジニア達がすごいムーブメントを起こそうとしていた」と振り返りますが、そのムーブメントを日本で起こすきっかけになれればと、イマーシブ・スタジオを作る決意をしたと話します。この想いを実現すべく完成した新スタジオとなるSTUDIO PEARLには、Genelecの同軸3ウェイ・モニターとなるThe Onesの8351とハイトchに設置された8341、そしてサブウーファーの7380によるイマーシブ・システムが導入されました。

徹底して未来を志向したイマーシブ・スタジオ「NK PEARL」- ニラジ・カジャンチ

サブウーファーには7380を2基採用。「音楽を作っている人として、サブウーファーを使わないことは考えられない」と話すニラジ氏。充実した低域はミックスの仕上がりに大きく関係するという

Genelec

「まずGenelecを選択した理由、そのなかでもThe Onesを選択したのは、安心感ですね。一番使われているスピーカーとして、色々なエンジニアさんが慣れている、お客さんが安心してくれるということはやはり大きかったです。それともうひとつは、今回は自分が一番ミックスしやすい音像感の中で選んでいったんですけど、The Onesの8351を聴いた時に広がりというか、ファンタム・センターの質が一番分かりやすかったんです」

徹底して未来を志向したイマーシブ・スタジオ「NK PEARL」- ニラジ・カジャンチ

リアchの8351は、縦向きで耳の高さよりも2.5cm高く設置。「縦向きでも横置きでも設置できて、(Iso-Pod™で)角度が微調整できることもメリット」と話す

STUDIO PEARLの大きな特徴となるのが、ハイトchに6基の8341を設置した構成となっていることです。これには、ハイトchを6chとした方が緻密なファンタム・センターが再現され、より細かなミキシングができるというニラジ氏の考えが関係しています。また、ニラジ氏が視察に訪れたスタジオのいずれもがハイトchは4chとなっていたことも理由の一つだったそうです。「だったら、自分ではハイトchを6つとして、様々なスピーカー構成で作られたDolby Atmosの作品を聴いて、それぞれのエンジニアさんのミックス・スタイルの分析ができればいいな、と思ったんです」とその理由を話します。

徹底して未来を志向したイマーシブ・スタジオ「NK PEARL」- ニラジ・カジャンチ

ハイトchには合計6基の8341を設置

そしてもうひとつ、ニラジ氏にとってGenelecを選択した理由に大きく関わったのが、STUDIO PEARLを訪れるクライアントがどのようなイメージで制作に臨むことができるか、ということでした。

「僕がスタジオを作る時は、音もそうですが何よりも色や見た目にこだわるんです。来る人がどのような気持ちになるか、そのイメージが大事だと思います。このスタジオを“STUDIO PEARL”という名前にしようということは最初から決めていて、“PEARL”という言葉から連想する通り白を基調とした、どこか未来のイメージを感じさせるスタジオにしたかったんです。Dolby Atmosに興味を持ってくれる人は、未来を見ている人だと思いますから。それと、僕はGenelecには昔から、他のメーカーさんがやらない新しいことをやってくれるイメージがあります。The Onesもそのテクノロジーは本当に新しいもので、このスタジオにふさわしいと気に入っています」

白という色は、そこから何色にも変化できる色です。STUDIO PEARLのコンセプトについて語るニラジ氏の言葉からは、これから音楽に関わる人々と共に未来を切り開いていくという強い意思が感じられます。

「Dolby Atmosだから……ということになって欲しくなくて……。だって、今はステレオだから音楽を聴くって誰も言わないですよね。でも、最初ステレオが出た時はみんなびっくりしていたと思うんです。それと同じように、いまはDolby Atmosにみんなびっくりしているけれど、これがスタンダードになって行くかどうか、という話なんです。ただし、今と昔で違うのは、サウンド・バーやMacBook、もっと言えばiPhoneでだってDolby Atmosが聴けるということ。Dolby Atmosとかのイマーシブは、もう意識しなくても皆さんの生活の一部にすでに溶け込んでいるんです。だから今後の基準になって欲しい、と僕は思っています」