The Ones - P's STUDIO

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P's STUDIOは、2015年にアフレコ・スタジオの「A/R One」をDolby Atmos対応に改修し、国内でいち早くイマーシブ・オーディオに取り組み始めたポストプロダクション・スタジオとして知られています。その後、2017年には最初からDolby Atmosに対応させた「A/R Three」という部屋を新設し、2021年にはMAスタジオの「MA-2」も全面改修によってDolby Atmos対応スタジオへと生まれ変わりました。

こうしたイマーシブ・オーディオへ取り組む背景を、株式会社クープの村上智広氏は、次のように話します。

より明確なイマーシブ・ミックスを可能としたThe Ones - P's STUDIO

株式会社クープ ポストプロダクション部 音響グループ マネージャー 村上智広氏

「最近では音楽をはじめ、舞台、ミュージカル、ラジオ・ドラマなど、様々なコンテンツでイマーシブ・ミックスの仕事をいただいています。音楽のコンサートや舞台で、最初からDolby Atmosでミックスすることが分かっている場合は、オーディエンス・マイクを追加して収録することもありますね。ステレオ・ミックスでは全ての音を前方に畳み込まなければならなかったわけですが、イマーシブ・ミックスでは後方や天井にも音を配置できるので、エンジニア的には表現の幅がかなり広がったと思っています。コンテンツにもよるのですが、自由度が高い分、イマーシブの方がミックスしやすい場合もありますね」

3ウェイ同軸モニターのThe Onesシリーズが導入されたMA-2は、P's STUDIOで最も新しいスタジオです。イマーシブ・コンテンツの需要が高まってきたタイミングにDolby Atmos対応のスタジオとしてリニューアルされたこのスタジオのスピーカーには、満場一致でThe Onesの採用が決定されたと振り返ります。

より明確なイマーシブ・ミックスを可能としたThe Ones - P's STUDIO


「このスタジオをリニューアルする前にMA-1という7.1chのスタジオを改修したのですが、その時にスピーカーをThe Onesに入れ替えたんです。それまで弊社では同軸のスピーカーを導入したことがなく、個人的には少し抵抗があったのですが、実際に試聴したら凄く良かったんですよね。音に張りとパワー感があって、全体的なまとまりもいい。3ウェイや2ウェイなどいろいろなスピーカーを聴き比べたのですが、試聴したスタッフで話し合った結果、The Onesが良いという意見でした。MA-2をリニューアルした時も、Dolby Atmosと同軸スピーカーの親和性を確かめたいと思いましたし、ほとんど迷わずにThe Ones一択という感じでしたね。たくさんのスピーカーを鳴らす環境ですと、スウィート・スポットは自ずと決まってきますから、ピンポイントで位相を明確化できるThe Onesは、Dolby Atmos対応のスタジオに合っているのではないかなと思います」

このリニューアルしたスタジオMA-2は9.1.4chのイマーシブ・システムが構築されており、劇場作品のプリミックスやステレオ作品の作業を行う観点から、フロントLCRはパワーのある8351Bを、その他は8341Aというスピーカー構成を採用しています。村上氏は「型番は異なるシステムでも、音質的/つながり的にはまったく問題ありません」と話します。

より明確なイマーシブ・ミックスを可能としたThe Ones - P's STUDIO

フロントのLCRは8351B、その他のスピーカーは8341Aを導入。

また、ハイトchに設置された8341AについてもThe Onesならでは良さを感じているそうです。

「ハイト・スピーカーは、もう少し高い位置に取り付けられたらベストだったと思いますが、建物自体の制約があるのでそれは無理な話です。ですが、実際に作業してみるとThe Onesの解像度が高いからかこの高さの空間でも上下の分離感はしっかり保たれています」

そして、この部屋の音の調整に貢献しているのが、設置された空間に対してスピーカーを最適化させるGLMソフトウェアです。

より明確なイマーシブ・ミックスを可能としたThe Ones - P's STUDIO

P's STUDIOではGLMソフトウェアをマルチポイント・モードで使用。これは、実際の作業では頭を固定し続けることが難しいという実践的な観点から選択している。

「このスタジオでは、GLMソフトウェアをもちろん使用しています。このスタジオの真ん中からすこし外れた3〜4ポイントをマルチポイント・モードで測定して、GLM上のEQで好みのバランスに微調整しています。本来はシングルポイントで測定して真ん中でビシッと定位が決まっているのが正確で一番良いとは思うのですが、実際の作業ではその位置に頭を固定し続けるというのは難しい。なので、少し遊びが合ったほうがいいかなというのが理由のひとつです。リニューアル以降、外部のエンジニアをはじめ、多くの人がこの部屋を使用していろいろな意見が出てきているので、シングルポイントでキャリブレーションしたパターンや、それ以外でのプリセットも用意しました。瞬時に様々なパターンに変更できるのも気に入っています」

より明確なイマーシブ・ミックスを可能としたThe Ones - P's STUDIO

GLMソフトウェアでは到達時間補正を含めた各スピーカーの調整も行う。

P's STUDIOでGenelecが採用された理由には、サウンド以外の面も大きく関係しています。それは、メーカー・サポートの信頼性。村上氏はこの点も非常に重要と話します。

「実は、以前はMA-1、MA-2、それとアフレコ・スタジオのA/R One、A/R Two、A/R Threeは他社のスピーカーで統一していたんです。しかし、そのスピーカーの生産が完了してしまったんですね。これは、改修時にGenelecを選択肢とした理由のひとつでした。弊社は業務で使用しているので、いきなりメーカーが無くなってメンテナンスができなくなってしまったら困ってしまう。音が良いのはもちろんですが、ひとつのスタジオだけで運用しているわけではないので、メーカーのサポート体制というのは機材選定時の重要なポイントなんです」

前述のとおり、同軸のスピーカーに少なからず抵抗があったと話す村上氏ですが、同軸3ウェイ・モニターとなるThe Oneシリーズはミックスのクオリティ向上に大きく役立っているようです。

「The Onesは定位が良く、解像度が高いスピーカーだと思います。それと、もの凄く低域が出るスピーカーですよね。これまで聴こえなかった部分が、The Onesで再生すると明確に聴こえるというか。細かい音作りという部分では、このスピーカーを使用することでより追い込むことができるようになったと思っています」