カプコン Dynamic Mixing Stage – 業界を牽引する先進の 3Dオーディオ対応スタジオ
―― 昨年(2018年)、bit MASTER studioのStudio Bをリニューアルされたそうですね。
はい。この1〜2年で僕がスタジオで行う作業がかなり変わってきたので、それに合わせてStudio Bの方をリニューアルしました。これまで大きなタイトルのゲームですと、“カット・シーン”と呼ばれる映画のワン・シーンのようなムービーが必ず挿入されていたんですが、昨年発表した『バイオハザード7 レジデント イービル』ではカット・シーンが完全に無くなり、映像的なシーンはすべてゲームのプログラムとして流れるようになったんです。今後、カット・シーンのような固定された映像演出は間違いなく減っていくので、それだったら“プログラムのためのミックス”を快適に行える空間にした方がいいんじゃないかと。そこで部屋の音響設計を完全にやり直し、機材もできるだけコンパクトにして、これまでとはコンセプトの違うスタジオとしてリニューアルしたというわけです。
―― 従来のミックスと“プログラムのためのミックス”の違いは?
基本的にはやっていることは変わりません。それをPro Toolsの中で行うか、ゲーム開発エンジンの中で行うかの違いですね。最近はゲーム開発エンジンだけでなく、ミドルウェアを使うことも多いんですが、Audiokinetic Wwiseのようなソフトウェアを使うと、グラフィカルなUIでミックスすることができるんです。事前にPro Toolsで作ったミックスをWwise上で再現するのではなく、もうWwiseで直接ミックスをしている感覚ですね。今後、Pro Toolsとミドルウェアやゲーム開発エンジンの親和性が高まれば、効率的に作業が行えるようになるのではないかと期待しています。
―― 今回、音響設計を完全にやり直したとのことですが、どのような空間を目指したのですか?
どんな定位でも音が明瞭な空間です。ゲームは映画と違って、音がプレイヤーの周りをグルグル回ることがよくあるんです。また、映画ではあり得ませんが、敵全員が背後に回って、後方からしか音が出ていないということも起こりうる。そしてゲームの場合は、それが単純な効果音ではなく、プレイヤーにとって重要なインフォメーションだったりするんです。従ってファンタム定位が重要で、そこには今回こだわりましたね。音響設計はソナさんにお願いしました。
―― 3Dオーディオ、具体的にはDolby Atmos/DTS:X対応というのも、このスタジオの大きな特徴です。
3Dオーディオ対応タイトルの制作が決まっているわけではないんですが、“ゲームで3Dオーディオを”という気運は確実に高まってきているので、そろそろ真剣にハイト・スピーカーを使った音響を考えなければならないだろうと。3Dオーディオにはいろいろなフォーマットがありますが、現状ゲームの世界ではDolby Atmosが一歩リードしていて、同じ配置でDTS:Xもカバーできるため、7.1.4chのモニター環境を整えました。Dolby Atmos 9.1.4chへの対応も考慮し、フロント・ワイド・スピーカーを装着するためのブランク・パネルも準備してあります。加えてソナさんのご提案で、スピーカー・パネルの上部にスピーカーを設置することで2レイヤーを構成できるようになっており、比較的容易にAuro3D 13.1chにも対応可能になっています。
■明瞭な定位感を求め、日本で初めてThe Ones 8341/8331を導入
―― そして“Dynamic Mixing Stage”のモニター・スピーカーとして導入していただいたのが、The Ones 8341/8331です。カプコンさんが日本では最初の導入例となったわけですが、The Ones 8341/8331を選定された理由についておしえてください。
Dolby Atmos/DTS:X対応のスタジオということで、聴く角度によって位相特性が変わるようなことが起こらないように、最初から同軸のスピーカーを入れようと考えました。部屋も狭いですし、位相特性がしっかりしている同軸のスピーカーを入れるのがベストだろうという判断です。そんなときにGenelecからThe Onesシリーズの8341/8331が発売されることを知って、これはいいんじゃないかと。弊社はもともとGenelecのスタジオ・モニターをたくさん導入していて、サウンド・デザイナーやコンポーザーが仕事をしている部屋には、おそらく300本以上のGenelec製スタジオ・モニターが入っているんじゃないかと思います。この部屋の前のスピーカーも1031Aでした。
―― 最初にThe Ones 8341/8331を試聴されたときの印象はいかがでしたか?
ジェネレックジャパンが設立された2017年8月、本社から社長や開発のトップが来日されたんですが、そのときに大阪まで足を運んでくれてデモしてくださったんです。試聴して感じたのは、これまでのGenelec製スタジオ・モニターと比べて、良い意味で素直なサウンドに仕上がっているなということ。とてもニュートラルなサウンドで、これなら良いなと思いました。
―― スタジオが完成して、実際の使用感はいかがですか?
この部屋では“GLM(Genelec Loudspeaker Manager)”を使って補正してるだけで、すべてフル・レンジで鳴らしているんですが、非常に聴きやすいサウンドですね。自分のイメージしている音が、イメージどおりに鳴ってくれている印象です。ところどころ“Genelecらしさ”は残っているんですが、全体的にはとても素直な音になった感じがします。最近は自分でIRを録りに行って、ゲーム上の空間用リバーブを作ったりしているんですけど、その微妙な違いもわかりやすい。スタッフも“これまでと本当に同じ部屋なのか?”と驚いてます。
前はこの部屋で大きな音量を出すと、低音がまったくわからなかったんですよ。しかし改装後は低音がドーンと気持ちよく鳴ってくれる。この部屋には上手く低域が入らないんじゃないかと思っていたので、その低音の鳴りにはとても驚いています。あとは定位の明瞭さがすばらしい。LRで鳴らしたときにセンター・チャンネルの音が完全に真ん中から聴こえるんです。センター・スピーカーから音が出ているんじゃないかと思うくらいに。新スタジオの仕上がりにはとても満足しています。
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