モニターの設置方法
理想的なリスニング体験を実現するため、モニター設置時に注意すべき点がいくつかあります。まず、室内でのリスニング・エリアを決め、モニターと室内に対してどの位置が最適なリスニング・ポジションかを検討する必要があります。これは、壁面反射やモニター周辺の放射空間が大きく影響します。細心の注意を払ってモニターを設置することで、最大限のリスニング体験を引き出すことができます!
リスニングエリアを特定する
室内を前、中央、後の3 部分に均等に分割します。 音楽制作の場合、リスニングエリアを前部分に配置し、左と右のモニター間の角度が60°になるようにした上で、各モニターがリスニング位置に向くようにします。映画制作の場合、リスニングエリアを後部分に配置します。
室内の反響面間の共鳴は「定在波」または「ルームモード」と呼ばれます。共鳴がある場合、音圧極大は反響面で生じます。リスニング位置は、音圧極大のゾーンを避けるために壁から少なくとも1 m 離れた場所に配置します。
一般的な2 ウェイシステムの場合、モニターの音響軸の高さを耳の高さに合わせることをおすすめします。通常は床から1.2 ~ 1.4 m の高さになります。モニターの設置位置を高くして少し傾けると、床からの反響を最小限に抑えることができます。標準ステレオ/ マルチチャンネル制作では、モニターを高く設置しすぎて傾きが15°以上にならないようにしてください。各モニターは必ずリスニング位置に向くように設置します。モニターの床からの位置が高くなればなるほど、反響による周波数特性のずれが少なくなります。ただし、部屋の高さの半分の位置に配置するのは避けてください。低域では天井も反響面となるためです。
2 種類の室内レイアウトにおける5.1 モニタリングセットアップの配置例
室内におけるモニターとリスニング位置の決め方
音は、壁、天井、床により反響します。リスナーに届く音響レベルは、反響する音が直接の音と同相だと上昇します。一方で、反響する音が直接の音と逆相だと、音響レベルは低下します。
室内の反響面が音響エネルギーを回折するようデザインされていない場合、反響した音響エネルギーの大部分は、壁にぶつかったときと同じ角度で反響面から反射します。横壁、天井、床からの直接の反響がリスニング位置に届くような場所にモニターを設置するのは避けましょう。
部屋のサイズが音の波長に合えば、音響エネルギーが累積して共鳴になります。この共鳴音は室内の定在波となり、共振周波数に応じて、室内の特定の位置で音圧極大および極小になります。室内でのモニターの位置は、定在波の共鳴が集めるエネルギーの量と、その聴こえ具合に影響します。モニター位置を動かすと、問題の原因となる定在波の共鳴のレベルを下げるのに役立つことがあります。
リスニング位置は、定在波の共鳴に対して好ましくない場所にある場合もあります。リスニング位置が定在波のない場所にある場合、共振周波数は非常に低くなり、これらの周波数がないように感じられます。これは、リスニング位置を動かすことでこの問題を解決できます。この場合、一般的にはリスニング位置を前または後に動かして調整します。
最も正確なステレオイメージは、ステレオペアの左と右のモニターの反響が似通っている場合に得られます。これは、モニターと直近の横壁と背後の壁との距離を同じに保ち、左右のモニターを同じ高さに置いて、リスニング位置を左右対称になるよう配置することで実現できます。
放射空間
放射空間とは、モニターが音を放射する空間です。音のレベルは、音の放射が壁により制限されると上昇します。放射空間が壁により半分になる毎に、音圧レベルは2 倍になります。
自由空間でフラットな周波数特性のモニターであれば、固い壁にぶつかって音のレベルは最大6 dB 上がります。隅(壁2 枚)だとこのゲインは12 dB になります。壁3 枚(隅と天井)だとこのゲインは18 dB になります。これは低域で特に顕著に見られます。
音の放射については、「音の基本」の章にある「音の放射」の項をご覧ください。
音の放射および放射空間は、モニター設置の際に必ず考慮すべき項目です。Genelec は、設置場所が物理的に限られてしまうような難しいリスニング環境にも対応できるGLM キャリブレーション・ツールを開発しました。
モニターの背後の壁によるキャンセレーション
モニターと壁との距離は、音質に大きく影響します。モニターと壁の間に一定の距離がある場合、この距離が音の波長の4 分の1 と同じになる周波数では、壁反射はモニターと逆相になり、反響音によりモニターの音が打ち消されます。この周波数では、音のレベルが下がります。反響の度合いは、距離と、壁により反射される音の量により異なります。
壁の反響は、さまざまな周波数でキャンセレーションを生じさせます(これは「コムフィルタリング」とも呼ばれます)。第1 段のキャンセレーションは6 dB ~ 20 dB になります。モニター出力レベルのイコライゼーションは役に立ちません。なぜなら、同じレベル変更が反響される音にも適用されるからです。
第一の解決策は、モニターを固い壁に埋め込み設置(大型バッフルを作成)し、前壁の反響を排除し、キャンセレーションを消去することです。
もうひとつの解決策は、モニターを壁にぐっと近づけて配置することです。これにより、モニターの方向性が前方になり、キャンセレーションが生じなくなる程度に、キャンセレーション周波数を上げることができます。前述のとおり、モニターが壁際に設置されている場合、低周波ブーストを補正する必要があります(最大+6 dB ゲイン)。
代替手段として、モニターを壁からかなり離すこともできます。こうすると、キャンセレーション周波数がモニターの低周波カットオフ以下に移動します。モニターを壁から離すということは、モニターはリスナーに近づくということになります。これにより直接音のレベルが上がり、反響音のレベルは下がり、音質も向上します。
別の解決策として、壁に変更を加えて吸音効果を大きく高め、反響エネルギーの増幅が小さくなり直接音を打ち消さないようにする方法もあります。
低域の再現にサブウーファーが使用されている場合、モニターの場所をより自由に動かすことができます。サブウーファーは壁に近づけて設置する必要があります。モニターは、低周波ノッチがそれぞれのパスバンドで生じない程度の位置に配置する必要があります。
モニターの背後の壁からの反響によるオーディオのキャンセレーションを防ぐには、以下の配置ガイドラインに従ってください。この反響は低周波数のみに生じます。キャンセレーションを防ぐことは重要です。反響はウーファー出力を低下させ、モニターの低周波出力が低くなりすぎる原因となります。キャンセレーションを防ぐには、モニターを十分壁に近づけて配置してください。一般的に、モニターの正面から壁までが60 cm 未満になるようにします。こうすることで、低周波出力の低下を避けられます。リアバスレフポートからのフル出力を確保するためにもモニターは壁から少なくとも5 cm 離して配置する必要があります。
モニターとサブウーファーの配置
低域では、定在波が均等に発生していることが重要です。1 台のサブウーファーを使用する場 合、前壁に沿って、室内の中央軸から少しずらして配置することをおすすめします。室内を囲 むように2 台または4 台のサブウーファーを使用すると、定在波の発生を安定させることが できます。
サブウーファーを壁際または隅に配置すると、低周波出力が最も大きくなります。低周波では定在波が均等に発生しているときに、最もフラットなレスポンスが得られます。1 台のサブウーファーを使用する場合、前壁に沿って、室内の中央軸から少しずらして配置します。2 台のサブウーファーを使用すると、よりフラットなレスポンスが得られます。レベルキャリブレーション中、サブウーファーの出力レベルは、メインモニターシステムと同じレベルに設定されます。
Genelec 7000 シリーズのサブウーファーのクロスオーバーフィルターは85 Hz に設定されています。このサブウーファーは85 Hz を下回る周波数を再生します。それより高い周波数はモニターにより再現されます。
Genelec Smart Active Monitoring(SAM)サブウーファーは、50 ~ 100 Hz のクロスオーバー周波数を有効にします。サブウーファーのクロスオーバーは、モニターとサブウーファーの両方が音を出力する周波数に設定します。
クロスオーバーでのサブウーファーの位相を調整します。位相が正しく設定されていないと、クロスオーバー周波数でサウンドレベルの低下が生じることがあります。位相調整については、サブウーファーのオペレーティングマニュアルを参照してください。
低域効果音(LFE)チャンネルのカットオフ周波数は、別途選択できます。
一般的に推奨されるモニター背後の壁とサブウーファーとの間の距離については、下の図をご覧ください。
ポストプロダクション施設向け用途
大規模ポストプロダクションスタジオなどの一部の用途では、サブウーファーを前壁に沿って配置するのはおすすめできません。この配置では、サブウーファーがリスニング位置から遠くなり、サブウーファーの周波数特性がフラットにならないためです。これらの場合には、サブウーファーをメインモニターセットアップの近くに横壁に沿って配置することをおすすめします。2 台のサブウーファーを使用して、1 台ずつを横壁に沿って配置すると、低周波のフラットさが向上します。